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『歪なピース 後編』 霖之助 こいし

ようやく完成しました、こい霖SSの後編になります。
何というか……随分と期間が空いてしまってすみません <( _  _ ;)>
それではどうぞ~


メインキャラ霖之助 こいし
 甘さ★★★☆☆・・・3つ
 シリアス★★★★★・・・5つ
さとりさんマジお姉ちゃん


『歪なピース 後編』


  ■ ■ ■

 薄暗い闇に包まれた廊下を黙々と歩く。
 等間隔に配置された照明は明滅を繰り返し、それに合わせて私の影もゆらゆらと揺れ動いている。

 やがて私は1つのドアの前で歩みを止めると、体ごとそちらの方へ向き直った。

 『こいしの部屋』

 目線の位置に掛けられたドアプレートには可愛らしい文字でそう刻まれている。
 その文字が示すとおり、この部屋はこいしの……私の妹の部屋だ。

 「こいし……夕食の用意ができたわよ」
 「……いらない」

 またか、と私は内心で溜息を吐いた。
 こいしが数ヶ月ぶりに地霊殿へと戻ってきたのが今から3日前のこと。
 それ以降、彼女は自室に閉じ篭もったまま外部からの干渉を一切拒絶していた。
 私やペットたちが扉越しに何度も話しかけ、どうにかして部屋から連れ出そうと試みたのだが、
 今日に至るまで一度も功を成していない。

 「こいし、せめて何があったのかだけでも教えてちょうだい……?」
 「……お姉ちゃんには関係ないよ」

 引き篭もっている理由を幾度となく尋ねても、固く心を閉ざしたまま答えようとすらしてくれなかった。
 何を言っても聞く耳持たず、その原因を探ることすらできない……はっきり言ってお手上げ状態だ。

 ……とは言え、このまま放っておく訳にもいかない。
 姉として、家族として……この子を見捨てるような真似は決してできはしない。

 「……お腹が空いたらいつでも降りていらっしゃい」

 私はそれだけ言い残すと、やるせない思いを胸に抱えたままその場をあとにするのであった。










 「あ、さとり様!」
 「こいし様はどうでした?」
 「……駄目ね、今日もまともに話を聞いてくれなかったわ」

 暗い表情でそう告げる私を見て、お燐とお空の2人もがっくりと肩を落とす。

 「一体何があったんでしょう……?」
 「こいし様……」

 本心からこいしのことを気遣う想いが、私の能力を介して直にこちらへと伝わってくる。
 この2人も私と同じくらい、あの子のことを心配してくれているのだ。

 「2人とも、心配してくれてありがとう……でも私たちまで落ち込んでいる訳にはいかないわ。
  何とかしてあの子を部屋から連れ出さないと……」

 あの子も妖怪である以上、多少食事を抜いたぐらいでは餓死に至りはしない。
 しかしそれでも、健康に少なからず悪影響を及ぼすことは間違いないはずだ。
 このまま篭城を続けていたら、あの子は確実に体を壊してしまう。

 「せめて閉じ篭もっている原因が分かればいいんですけど……」
 「そうね……あの子があんなに落ち込むだなんて、よっぽどのことがあったに違いないわ」

 こいしは遠い昔、他人の悪意に傷付けられるのが嫌で自ら心を閉ざしたのだ。
 にも関わらず、あの子は今こうして傷付き、悲しみ、苦しんでいる……
 それがどうしようもなく理不尽なことに思えて、私の胸はやり場のない憤りで張り裂けそうであった。

 「この数ヶ月の間あの子がどこで何をしていたのか……手がかりになりそうなものはない?」 
 「手がかり、ですか……」
 「うにゅー……」

 3人揃って頭を捻るが一向にして打開策は浮かび上がってこない。
 こいし本人の口から直接聞き出せればいいのだが、あの様子では到底無理だろう。
 だったら自分たちで手がかりを探し出すしかないのだが、そう簡単にいくはずもないというのが現実であった。

 (こんなとき、あの子の心を読めたなら……)

 考えても仕方のないことだとは分かっていても、そう思わずにはいられない。
 読みたくもない思考は勝手に流れ込んでくるくせに、肝心なときに大切な人の心が読み取れないなんて……

 「……さとり様、どうか自分を責めないでください」
 「お燐の言うとおりですよ、私たちも必死になっていい方法を考えますから!」
 「必死に考えるって言っても、お空の頭じゃ……ねぇ?」
 「? どういう意味?」
 「アンタは……皮肉すら通じないのかい」
 「…………ふふっ」

 2人のやり取りを見ているうちに、心に蟠っていた陰鬱とした思考はどこかへ吹き飛んでしまっていた。
 こいしだけでなく私まで心配を掛けているようでは世話がない。
 一家の大黒柱として、こんな時にこそ気持ちをしっかりと持たなければならないだろう。

 「……こうなったら虱潰しでいくしかないわね」

 愛する妹のため、そして掛け替えのない家族のため。
 私は自らの心を奮い立たせ、行動を開始した。














  ◇ ◇ ◇

 こいしが香霖堂を去ってから1週間ほどが経過し、以前までの静かで空虚な日常が僕の元へと舞い戻ってきていた。
 彼女の喪失と共に例の発作は起こらなくなったが、それでもどこか物寂しい感がするのは歪めない。

 (自分からあの子を突き放しておいて、今更何をうじうじと……)

 分かってはいる。
 あの子との生活を切り捨てて今の生活を選んだのは他ならぬ僕自身だ。
 そんな自分に彼女のことを恋しく思う権利などありはしない。否、あってはならないのだ。

 ……しかしそれでも、僕の心は確かに寂しさを訴え続けている。
 まるで心に風穴が開いてしまったかのように、寂寥感溢れる風がビュービューと吹き抜けて止まないのだ――

 と、その時。




 カラン、カラン――




 「――っ!?」

 静寂を引き裂くかのようにカウベルの音が鳴り響いた。
 暗い思考に浸かっていた僕は軽い驚きと僅かばかりの不安、そして微かな期待を胸にドアへと視線を向ける。

 (まさか――!)

 彼女が……こいしが戻ってきて――?


 「――こんにちは、そして初めまして」

 儚げな、それでいてどこか凛とした声音。
 僕の視線の先には見知らぬ少女が1人、ドアを半開きにしたままの状態で佇んでいた。

 来客がこいしではなかったという安堵、そして落胆。
 相反する2つの感情が僕の心を綺麗に分断する。

 「……いらっしゃいませ、本日はどういったご用件で?」
 「……どうやらここで間違いないみたいね」

 出会って早々会話が噛み合っていない。

 彼女は客ではないのか? 『ここで間違いない』とは一体どういう意味なのか?

 いくつかの疑問が突如として降って湧き、僕の思考回路を停滞させる。
 どう対応すべきか考えあぐねていると、僕の答えが出るのを待たずして向こうのほうから話しかけてきた。

 「念のため聞いておきますが、ここに“古明地こいし”という女の子が訪れませんでしたか?」
 「…………っ!」

 先ほどカウベルの音を聞いた時以上に、僕の心はひどく動揺した。
 どうしてそこでこいしの名前が出てくるのか?
 目の前の彼女は一体何者なのか?

 「……このままでは話が進まないので貴方の疑問に答えさせて貰いますと、
  私はこいしの姉の“古明地さとり”という者です」
 「こいしの……姉?」
 「はい、あの子から姉がいると聞かされていませんでしたか?」

 そういえばこいしに出自を尋ねたとき、そのようなことを言っていた気がする。
 私には気難しくて真面目な……けれどもとっても優しい姉が1人いる、と。

 「……そうですか、あの子がそんなことを……」

 彼女――さとりは僕が何も言っていないにも関わらず、まるで会話が成立したかのような台詞を漏らした。
 なるほど、これがこいしの言っていた――

 「心を読む程度の能力、か……」
 「あら、私の能力についてもあの子から聞いていたんですね」
 「まぁ……ね」

 自分たち姉妹は“さとり妖怪”という種族であり、他者の心を読み取れる妖怪だということ。
 しかし自分はその能力を封じてしまったため、姉と違って他者の心を読むことができなくなったということ。
 その2つの情報も、以前こいしから聞かされていたのだ。

 「それなら話は早い。
  申し訳ありませんが貴方の心を……正確に言えば心の中に眠る記憶を、ほんの少し覗かせていただきます」
 「僕の記憶を……? それは一体どうしてだい?」
 「この数ヶ月間、こいしの身に何があったのかを知るためです。
  貴方はつい先日までこいしと会っていたんでしょう?」
 「会っていたというか……その」

 彼女の実の姉に対し、「数ヶ月間一緒に暮らしていました」などと打ち明けてしまっていいものだろうか?
 誓って言うが僕とこいしの生活に如何わしい出来事など皆無であったし、僕らの関係はそのような爛れたものでもなかった。
 ……ある意味ではそれ以上に歪な関係だったとも言えなくはないが。

 「……というか妹のことを知りたいんだったら、わざわざ心など読まずとも僕の口から直接聞けばいいじゃないか」
 「“百聞は一見に如かず”と言うでしょう?
  わざわざ言葉で語られずとも貴方の心を直接覗き見たほうが早いのです」

 言われてみればその通りである。
 通常は言葉や文字を使ってでしか意思を疎通できないが、彼女に至ってはその限りではない。
 情報の正確性、そして効率という観点から見れば、自分の目で相手の胸中を直接確認した方が手っ取り早いに違いない。

 「確かに君の言うことにも一理あるが……しかし……」

 心の内を曝け出すなど、正直言ってあまりいい気はしない。
 自分の思考が他人に筒抜けになることに対し、良い感情を抱ける者などまずいないだろう。
 そんな僕の思考をも読み取ったのか、さとりは軽く眉尻を下げて心苦しそうな表情を作った。

 「貴方の気持ちも分かりますがこちらも真剣なんです。すぐに終わりますから、どうか我慢してください」
 「……分かったよ」

 物腰こそ丁寧ではあったが、その言葉の裏には確固たる意志が見え隠れしている。
 断れるような空気ではなかったし、その気になれば僕の許可など無くとも勝手に記憶を読み取れるはずだ。
 だったらここは少しでも事を穏便に済ませるために、渋々ながらも彼女の頼みを聞き入れておいたほうが賢明であろう。

 「ありがとう。それじゃあ早速、この数ヶ月の間に貴方とこいしの間で何があったのか……覗かせてもらいます」

 その言葉を皮切りにさとりの“能力”が発動し、僕の中に眠る記憶の残滓は彼女の手によってゆっくりと紐解かれていった――











 「……終わりました」

 数分後、僕の記憶を検閲し終えたさとりは静かにそう言った。
 心を読まれているという実感こそ湧かなかったものの、妙な緊張で満たされた数分間は僕の精神を少なからず疲弊させるのに十分であった。

 「……分かったかい? 僕とこいしの間に何があったのか、僕たちがどのような数ヶ月を送ってきたのか」
 「……ええ、込み入った事情の細部まで詳しく読み取らせて貰いましたから」

 彼女の言う“込み入った事情”とは、もしかせずとも僕の精神に起きた異常のことだろう。
 あれが原因でこいしとの生活が始まり、そして終わりを告げることにもなったのだから……

 「……こいしは、元気にしているかい?」

 あのような終幕を迎えたとはいえ……いや、あのような終幕だったからこそ、こいしが今どうしているのか気になって仕方がない。
 そう思っての何気ない質問だったのだが――

 「元気にしてるか、ですって……?」

 僕の質問を聞いたさとりの反応は、正しく“憤慨”の一言であった。

 「あの子に希望を抱かせておいて、その上で突き放した貴方が……
  よりにもよって『元気にしてるか』ですって……?」

 静かな怒りはやがて烈火の如き激情へと変貌を遂げ、僕の身に降りかかった。

 「よくもそんなことを言えたものね……! あの子が今、どれだけ悲しんでいると思ってるの!?」
 「こいしが、悲しんでいる……?」

 別れの際、あの子が浮かべた満面の笑みは紛い物だったというのか?

 ……いや、内心ではとっくの昔に気付いていたはずだ。
 『あの生活を楽しいと思っていたのは僕の方だけで、こいしにとっては一時の気まぐれに過ぎなかったのだ』
 勝手にそう解釈することで、心の中に芽生えた罪悪感に気付かないフリをしていただけだ。
 “自分の精神を保つために彼女を切り捨てた”という醜い事実から目を背けたいばかりに――

 「寂しい時にはあの子を求め、あの子では自分が満たされないと分かった途端に拒絶する……
  あの子は貴方の孤独を紛らわすためのペットじゃないのよ!?」
 「――そんなことぐらい、僕だって分かっている!!」

 気付けば彼女の怒りが僕へと飛び火し、抑え付けていたはずの“やり場のない憤り”が一斉に火を噴いた。

 「だが……だが彼女の側にいると、僕の心は自らの感情の重みに耐え切れなくなる……
  そのせいで彼女を傷付けてしまったりもした!
  だったらお互いのためにも、僕たちは共存しないほうがいいんだ!」

 一緒にいたいという思い。
 しかしその思いとは裏腹に、僕の心は拒絶反応を示す。
 何とも弱く、醜く、情けない精神だろうか。
 数百年を生きた大の男が孤独と寂寥に耐え切れずに温もりを求め、その結果傷付く必要のなかった少女まで傷付けた。
 そんな男に再び彼女との共存を望む資格などないし、何より望んではいけないのだ。
 きっと……そうに違いない。

 「……貴方は本当に馬鹿ね。馬鹿で、脆くて、惨めで……とても可哀想なひと」
 「……怒りの次は同情かい?」
 「人や妖怪は皆、心の奥底に暗い感情を抱えているもの。
  だから孤独を感じたり寂しいと思ってしまうことは決して悪いことではないわ」

 幾分落ち着きを取り戻したさとりは、まるで諭すような口調で僕に言葉を投げ掛ける。

 「今回の場合、あの子の能力が引き金になったという事実も考慮すると、
  一概に貴方だけを責めることはできないのかもしれない……」


 「……けれど、あの子を突き放したことが正しい判断だったと、貴方は本心からそう思っているの?」
 「…………っ!」
 「私の第3の目にはちゃんと映っているわ……“本当にあれで良かったのか?”という、貴方の本心がね。
  この期に及んでまで自分の本心から目を逸らそうとしているから、貴方のことを馬鹿だと言ったのよ」

 まるで八百長じみた問答だ。
 最初からこちらの本心が見えているくせに、敢えてそれを口に出して尋ねてくるとは。

 「さっきも言ったように、こいしは今ひどく落ち込んでいるわ。あの子も貴方との決別を望んでなどいないのよ」
 「だが……どれだけ互いに求め合っていても僕の心が弱い限り、そしてこいしの能力がある限り、
  僕たちは共生したくてもできないんだ……」

 強い意志さえあれば何でもできる、というのは無責任にも程がある言葉だと僕は思う。
 口で言うのは簡単かもしれないが、実際にはどうしようもない事柄などこの世には腐るほど溢れているのだ。
 ……そう、今回の僕たちのように。

 「……そうかしら」
 「え?」
 「強い意志さえあれば何でもできる……その言葉、決して間違いではないと思うけど」

 またしても能力を使ったのか、さとりは僕の思考に異を唱えた。

 「貴方たちの場合、貴方は“自らの弱い精神”が、こいしは“無意識を操る程度の能力”が、
  それぞれ足枷となっているわけよね?」
 「まぁ、そうだが……」
 「その2つは本当にどうしようもない……強い意志だけではどうすることもできない問題なのかしら?
  少なくとも私はそうは思わないけれど」

 何だって?

 「言ったとおりの意味よ。その2つの足枷、貴方たち次第で何とかなるものじゃないかしら?」

 僕たち次第で何とかなる……
 本当にそうなのか?

 「まず貴方の場合だけど……貴方が抱えている負の感情をゼロにすることは不可能でしょう。
  けれど、その量を“減らす”ことならできるはずよ。自分の心が押し潰されない程度にまで、ね」

 負の感情の量を……減らす?

 「人によって抱える感情の質や量は様々よ。
  神経質な人は些細なことでもストレスを感じてしまうし、
  気弱な人は言いたいことが言えずに負の感情を内側に溜め込みやすい。
  けれど能天気な人は細かいことでいちいち悩んだりはしないし、
  自分に正直な人は感情を溜め込まずにその場で発散させることができる。
  ほらね? 考え方次第で負の感情の量なんていくらでも調節できるのよ」

 それは確かに言い得て妙だ。
 人によって性格も違えば、感受性や価値観も異なってくる。
 そうすると抱え込む感情の質や量にも差が出てくるはずだ。

 「貴方を苦しめている負の感情は“孤独感”や“寂寥感”といった過去の思い出に起因するものばかり。
  だったらそれらの感情を減らすためにはどうすればいいか、分かるかしら?」
 「……あの頃の思い出を綺麗さっぱり忘れろ、ということかい?」
 「……貴方、本当に馬鹿ね」

 あまり馬鹿馬鹿言わないでほしいものだ。さすがの僕でも多少は堪える。

 「事実でしょう? 思い出自体は掛け替えのない宝物……それを忘れるだなんて、
  過去の経験を生かそうとしない愚か者の発想ね」
 「……じゃあどうしろと言うんだ?」
 「簡単なことよ」

 さとりはそこで一呼吸分の間を置き、

 「過去ばかりでなく、未来にも目を向けるようにしなさい」

 ゆっくりと、僕の心に染み渡るような声でそう言った。

 「未来にも、目を向ける……」
 「だってそうでしょう? これから先の未来に、楽しかったあの頃をさらに上回るような楽しい出来事が、
  貴方を待っているかもしれないじゃない?」

 その言葉を聞いた僕は、まさしく目から鱗が落ちるような気分だった。
 あの頃が楽しかったのは確固たる事実だ。その事実はこれから先も決して変わることはないだろう。

 だが――

 僕の未来にどんな日々が待っているのか、それは誰にも分かりはしない。
 もしかしたら、あの頃と同等かそれ以上に楽しい日々が待っているかもしれないのだ。

 「貴方の思い出の多くを占める“彼女たち”は、もうこの世に存在しない。
  けれど貴方自身はまだ生きている、これから先の未来がある。
  ……いつまでもこんなところで停滞してないでさっさと先に進んだらどうなの?
  貴方の人生のピークはまだまだ先なのかもしれないわよ?」

 さとりの顔には微笑さえ浮かんでおり、そこには先刻の厳しい色はまるで見当たらなかった。
 厳しく説教されたり優しく諭されたり、まるで彼女の弟にでもなった気分である。

 「こんな弟はいりません。私には妹1人で十分よ」
 「……やれやれ、随分と辛辣だね」

 苦笑と共に言葉を漏らす。
 いつしか僕の顔からも険しさは失せ、まるで憑き物が落ちたかのように胸中は晴れ渡っていた。

 「……貴方を縛っていた足枷については、もう心配する必要はないみたいね」
 「ああ……もう大丈夫だ」

 そう簡単に変わることはできないかもしれない。
 ふとした拍子に過去を思い出し、懐かしさと切なさで塞ぎ込んでしまう時もあるかもしれない。
 それでも……少しずつ、少しずつでいいから、過去を吹っ切って未来へと進んでいけるように努力しよう。
 そうすれば彼女の言うように、あの頃に負けないぐらいの素晴らしい日々に出会えるはずだ。


 「君には世話になってしまったね……ありがとう」
 「お礼を言われるにはまだ早いわ。貴方とあの子の問題はまだ解決したわけじゃないんだから」

 それもそうだ。
 僕を縛り付けていた鎖はこれで解かれたのかもしれないが、こいしの方は未だに呪縛に囚われ続けている。
 僕だけでなく、彼女の足枷も外してやらなければならない――

 「君はさっき、この問題は僕たち次第で何とかなるものだと言っていたが、こいしにもそのことが言えるのかい?」
 「ええ……あの子の能力は後天的に自らの意思で取得したものなの。
  だからあの子の意思次第で、かつての能力を取り戻し今の能力を捨て去ることも可能なはず」

 今の能力、即ち“無意識を操る程度の能力”さえ失うことができたら、僕が彼女に苦しめられることもなくなる。
 僕だけが変わろうとするのではなく彼女の方からも歩み寄ってくれたのなら、それは問題解決への大幅な近道になるはずだ。

 「あの子は心を閉ざしたことによって今の能力を手に入れた……
  ということは、あの子の心を開くことができれば今の能力は失われるはずよ」
 「心を、開く……」

 さとりは事も無げにそう言ったが、それは決して簡単なことではないだろう。
 何十……いや、下手をすれば何百年にもわたって頑なに閉ざされ続けてきた彼女の心を、
 今更になってどこの誰が開け放てるというのか?

 「どこの誰が? 本気でそう思っているんなら……ああ、一応自覚はあるのね」
 「この状況で他に誰がいるっていうんだ……」

 そう、こいしの心を開く役目を担うのは、他でもない僕自身だろう。
 それが彼女を傷付けたことに対する責任の取り方だ。
 しかし……

 「……僕に彼女の心を開くことができるとは思えない」

 正直なところ、自信もなければ具体的な策もない。
 むしろ今回の件で彼女の心をより一層固く閉ざしてしまったのではないだろうか……?
 そんな僕に、彼女の心の扉を開け放つことなどできるのか?

 「できるわ、きっと。貴方が……そしてあの子が変わろうとさえすれば」

 さとりの声色からは完全に棘が抜け、今となっては幼子をあやすような優しささえ孕んでいる。
 その幼子とは僕に当て嵌まるのだろうが……こんな情けない状態では反論のしようがない。

 「今の貴方とあの子では、どれだけ互いを求め合ったところで決して共存することはできない。
  お互いの心が酷く歪んでいるんだもの、それも当然よね」

 錆付いて風化し、荒々しい形になってしまった僕の心。
 あらゆる感情を受け付けない、平面で覆われたこいしの心
 そんな2人の心が寄り添おうとしたところで相手を傷付けたり弾き返したりを繰り返すのみで、
 決して両者の間にある溝は埋まらない。

 「だけど――」

 そこでさとりは両手を綺麗に合わせると、

 「お互いが自分の歪さを自覚し、相手に合わせてカタチを変えていければ……
  いつかきっと、隣り合ったパズルピースのようにぴったりと合わさることができるはずよ」

 そう言って、穏やかに微笑んだ。
 その笑顔を見せられたことにより僕の胸中に蟠っていた“何か”が、ゆっくりと音を立てて融解していく――

 「……こいしの心を開く、か。僕にそんな大役が務まるだろうか?」
 「“務まるだろうか”ではなく絶対に務めなさい。
  あの子をこれ以上悲しませたりしたら、姉として黙っていないわよ?」

 一見冗談めかした口調ではあるが、その実8割方は本気だろう。
 心を自在に読み取り、奥底に眠ったトラウマを引き摺り出すさとり妖怪……間違っても敵に回したくない相手だ。

 「仕方ない、覚悟を決めるか……」

 溜息混じりにそう呟いたものの、僕の心は既に決意で満ちていた。
 それが分かっているからだろう、さとりは僕の方を見て満足げな笑みを浮かべている。

 「さとり、君に1つ伝言を預かって欲しいんだが……」

 善は急げ。
 これ以上こいしを悲しませないためにも、僕は早速行動に移ることにした。











  ◆ ◆ ◆

 「……え?」

 扉越しに聞こえてきたお姉ちゃんの言葉に、私は呆然とした声を上げた。

 「お兄さんが……?」
 「ええ……もう1度貴女と会って話がしたいそうよ」

 おぼろげな思考を徐々に覚醒させようやくその言葉の意味を解したとき、私は喜びとも悲しみともつかない複雑な心情に陥った。

 (お兄さんが私に会いたがってる……?) 

 正直言ってその事実は堪らなく嬉しい。これは嘘でも何でもない私の本心だ……そう思う。
 しかしそれと同時に、不安や疑問といった靄がかった感情が心の中に漂っているのもまた事実であった。
 どうして私がお兄さんから拒絶されたのか、その理由さえ未だに理解できていないというのに……
 こんな状態のまま再会を果たしたところで再び同じ結末を辿るだけなのではないかと、そのことがどうしようもなく不安で仕方がないのだ。

 「……どうしてお姉ちゃんがお兄さんのことを知ってるの……?」
 「貴女が閉じ篭もってしまった原因を突き止めるために、ここ1週間地上を調べまわっていたの。
  それで昨日、ようやく彼の元に辿り着いたのよ」

 この1週間どれほどの苦労を味わったのかを、お姉ちゃんは疲弊に満ちた声で語ってくれた。

 鼻の利くペットたちに私の匂いを辿らせたり、道行く人妖に手当たりしだい聞き込み(という名の読心)をしたり、
 お空やお燐にも幻想郷中を奔走してもらったり、情報収集能力に長けた天狗の力を借りたり――

 それはもう壮大かつ凄絶な捜査劇だったという。
 そしてその結果、お姉ちゃんたちは見事香霖堂に辿り着いたのであった。

 「手がかりも何もない状態からのスタートだったんだもの、さすがに骨が折れたわ……
  貴女の心が読めたなら、すぐに彼の元へと辿り着けたんでしょうけど」

 そう言うお姉ちゃんの口調はどこか私を責めているようにも聞き取れた。

 「……仕方ないよ、私の心は誰にも読めないんだから」
 「そうやっていつまでも心を閉ざしているつもり?」

 間髪入れずに返された問い掛けに、私は唇をきゅっと噛み締めて黙り込むことしかできなかった。
 お姉ちゃんはそんな私に構うことなく、続けて言葉を連ねていく。

 「こいし……もういい加減、自分の心から目を背けるのはやめなさい。
  そんなことをし続けていても貴女は幸せになんかなれないわ」
 「……だけど、不幸な目に遭うこともないよ。
  元の能力さえ無ければ嫌われずに済むし、心を閉ざしていれば嫌な感情だって抱かずに済むから……」
 「それじゃあどうして、貴女は今そんなにも辛そうにしているのかしら?」
 「それは……」
 「心を閉ざしていれば傷付かずに済む……そんなものは幻想よ。
  現に貴女はこうして傷付き、悲しんでいるのだから」
 「………………」

 再び何も言い返すことができない。
 お姉ちゃんの言っていることは紛れもない正論で、付け入る隙など一分も見当たらないからだ。

 「……貴女に教えておくことがあるわ」
 「何……?」
 「貴女が彼に拒絶された理由よ」
 「――――っ!」

 それは……

 それは私が知りたくて堪らなかったことだ。
 その理由を理解し原因を改善することができれば、胸を張ってお兄さんと再会できるかもしれないのだから。

 「教えて! 私の何が悪かったのか、どこがいけなかったのか……!」
 「……いいわ、教えてあげましょう――」





 そうして語られた真実は、私を絶望の底に叩き落とすのに十分すぎるものであった――





 「そんな……私の能力のせいで……?」

 自分でも気付かぬうちにお兄さんを苦しめていただなんて……
 つい先程まで真実を知りたいと息巻いていた私だったが、これほどまでに残酷な真実なら知らないままの方が良かったのかもしれない。
 結局私はお兄さんとは会えない……否、会ってはいけないという事実を突きつけられただけなのだから。

 「周りから嫌われるのが嫌で心を読む能力を捨てたのに……
  それでも私はまた能力のせいで嫌われるの……?」

 もはや涙さえ出てこなかった。
 能力を捨て、感情を捨て、そこまでしても結局何も得られない。
 今回のことで分かったが、私はどうやっても他人から嫌われる運命にあるらしい。

 「もう……どうしようもないね、私って」
 「………………」

 自分たちの種族に課せられた能力から逃げ出して――
 心の扉を固く閉ざし、あらゆる感情から目を背け――
 そのせいでお姉ちゃんやペットたちにも迷惑をかけ――
 挙句の果てには好意を寄せていた相手さえも、知らず知らずのうちに傷付けてしまっていた。

 「……はは」

 滑稽だ、自分の不遇を呪う気持ちすら湧き上がってこない。
 自分は妖怪として……いや、1つの生命としても出来損ないなのだろう。 


 「私……もう……」

 「――悲嘆に暮れるのもいい加減になさい!」


 まさに“一喝”と呼ぶに相応しい、そんな怒声が廊下を伝わって地霊殿中に響き渡った。

 「お姉……ちゃん……?」

 生まれて初めて聞く実姉の怒声に、落ち込むのも忘れて唖然としてしまう。
 優しい口調で諭すように叱られたことは多々あれど、このように大声で叱り付けられたことなど過去に一度とてありはしなかったからだ。

 「さっきから聞いていれば貴女はそうやって下を向いてばかり!
  どうして辛い現実から逃げることしかできないの? 正面から立ち向かおうとは思わないの!?」

 激しい言葉の一字一句が、ドアという物理的な壁を越えて私の身に直接叩き付けられていく。
 それらは幾重にも重なる衝撃となり、私の心を大きく揺さぶった。

 「貴女が今までやってきたことは全て“逃げ”よ!
  嫌われることを恐れて自らの能力を捨て去り、他人だけでなく自分の心さえも直視しようとせず、
  今回だって自分を責め続けるだけで何も行動を起こそうとはせずに、全てを諦めるつもりなんでしょう?
  そんなことだから貴女の中身はいつまで経っても空っぽなのよ!」

 発言の1つ1つが鋭利な棘となり私の心に容赦なく突き立てられる。
 遠慮など微塵もない、本心から放たれた本気の想い。
 しかしそれらは私の心を直接傷付けることはなく、心を覆い隠すようにして纏わりついていた私の“弱さ”のみを的確に削ぎ落としていった。

 「嫌なことから逃げ出しては駄目。辛いことにも立ち向かって、前向きな解決策を考え出しなさい。
  そうしてそれらを乗り越えることができたとき、きっと貴女の中に残るものがあるはずよ」

 逃げ出さずに立ち向かうことで初めて得られるものがある――
 その言葉が本当だとして、私にそれを成し得るだけの勇気があるだろうか?
 私もお姉ちゃんのように、自らの能力と向き合いながら生きていくことができるだろうか?

 「もう1度、彼に会いたいんでしょう?」
 「……会いたい……お兄さんに会いたいよ……!」
 「だったら心を開きなさい。そして、かつての能力を取り戻しなさい。
  そうすれば“無意識を操る程度の能力”は失われ、彼の側にいても彼を苦しめずに済むわ」
 「でも……今度は“心を読む程度の能力”のせいで気味悪がられるかもしれないよ?
  それにそう簡単には昔の能力を取り戻せないし……」

 実際に私たちさとり妖怪は“他人の思考を読み取る気味の悪い連中”として、周囲から忌み嫌われ続けてきた。
 お兄さんだって心の中を覗き見られることを快くは思わないはずだ。
 それに“心を開く”と言ったって容易なことではないだろう。
 そのためには第3の目を開く必要があるが、長年にわたって固く閉ざされていたその瞳は開こうと思って簡単に開けるものではない。

 考えれば考えるほど不安が湧いて止まず、私の心は弱い意思に押し流されそうになる。
 ――けれど、そんな私を勇気付けるかのようにお姉ちゃんは優しく語りかけてくれた。

 「彼はそんな理由で貴女を嫌いになったりする人物かしら?
  それに心を開きなさいとは言ったけれど、何も今すぐにというわけじゃないわ。
  ゆっくりと時間をかけて少しずつ開いていければいい……
  きっと彼なら貴女が心を開いてくれるその日まで、快く付き合ってくれるわ」

 これといって根拠のない、そんな励ましの言葉の数々。
 しかしそれらは私を大いに鼓舞し、薄暗かった胸中を明るく照らし出してくれた。

 「……私の口から言えることはこれくらいよ。この先どうするかは貴女自身が決めなさい」

 その言葉を最後に、扉の向こうに感じられていたお姉ちゃんの気配が遠ざかっていく。

 お兄さんはもう1度、私に手を差し伸べてくれた。
 お空やお燐を始めとするペット達は、私のために一生懸命動き回ってくれた。
 そしてお姉ちゃんは、葛藤を続ける私の背中を力強く後押ししてくれた。

 皆が皆、私のために動いてくれたのだ。
 ここから先どう動くかはお姉ちゃんの言ったように私次第である。


 (――私がどうしたいかなんて、もう決まってるじゃない……!)


 2本の足で床を踏みしめ大きく呼吸を整える。
 そうして背筋をピンと伸ばし、凛とした姿勢で扉へと向き直ると――


 「――いってきます、お姉ちゃん!」


 無意識などではない、確固たる自分の意思をもってドアを思い切り開け放った。






  ■ ■ ■

 「――出かけたみたいですね」
 「大丈夫かな? こいし様……」
 「あの子ならもう大丈夫よ、心配いらないわ」

 お膳立てはした。ここから先どのような形に収まるのかはあの2人次第だ。
 私たちの出る幕は既に終了している。

 「にしても、さとり様があんなに怒るだなんて珍しいですねー」
 「うにゅ……ちょっと怖かったです」
 「あら? 大事な大事な妹のためを想ってのことよ。どうでもいい相手に対して本気で叱ったりはしないわ」

 我ながら慣れない真似をしてしまったが、そのおかげであの子が再び立ち上がってくれたのだから結果オーライだろう。

 (あの子は多分もう大丈夫……彼の方も問題ないはずよね)

 もしも万が一、事がうまく運ばずにこいしが再び傷付けられて帰ってきたら――
 その時はあの男の心に宿るトラウマというトラウマを掘り起こしてやる。

 (ま、そんなことは万に一つもないだろうけど)

 私たちが数百年かけても開くことのできなかったこいしの心を、あの男はわずか数ヶ月で開きかけたのだ。
 姉として悔しい思いもあるが、今やあの男はこいしにとって必要不可欠な存在になりつつある。

 (嫉妬、かしらね……らしくもない)

 娘を嫁にやる父親の心境、とでも言ったところだろうか?
 いや駄目だ、あんな甲斐性の無さそうな男にこいしを任せるわけにはいかない。
 ――少なくとも、今はまだ。


 (――頑張りなさい、2人とも)

 色々と複雑な思いはあるが、ひとまず今は彼とあの子を信じることにしよう。
 一旦そう結論付けた私は、2人に向けて心の底からエールを送るのであった。











  ◇ ◇ ◇

 1人きりの店内で無音の時がただひたすらに流れ続ける。
 僕は手慰みに適当な作業をこなしつつ時折横目でドアの方を窺うという、何とも落ち着きのない時間を過ごしていた。

 さとりがこの場所を訪れ、色々あった末に僕が彼女に伝言を託したのがつい昨日のこと。
 もしその伝言が無事に伝わり内容が聞き届けられたとしたら、今日辺りに“彼女”がここを訪れて来てもおかしくはない――
 そう思うと僕は年甲斐もなく落ち着きを失ってしまい、時計の針が進むに連れて僕の中にある緊張感も肥大化の一途をたどった。


 そしてついに、その時が訪れる。




 カラン、カラン――




 ここ最近ですっかり聞き慣れてしまったカウベルの音。
 その音に導かれるままドアの方へと視線を向けると、そこには僕のよく知る少女――古明地こいしが佇んでいた。

 「……いらっしゃい、こいし」
 「……久しぶりね、お兄さん」

 約1週間ぶりの再会において最初に交わされた言葉は在り来たりな常套句であった。
 しかしそんな何気ない言葉のやり取りが、ぎこちない僕たちに多少なりとも落ち着きを与えてくれる。

 「君がここに来てくれたということは、さとりに頼んだ伝言は無事に伝わったようだね」
 「ええ、お兄さんが私に会いたがってるって聞いてね……
  最初は行くべきかどうか迷ったけど、お姉ちゃんに後押しされて来ちゃった」

 伝言を伝えるだけでなくアフターケアまで施してくれるとは、さとりには頭が下がる思いだ。
 ――しかしその前に、真っ先に頭を下げなければならない相手が目前にいる。

 「……いきなりで悪いが君を拒絶し傷付けたことを謝らせてくれ。本当にすまなかった」

 大の男が幼い少女に向けて頭を垂れる様は、傍から見れば何とも惨めに映ることだろう。
 けれどもそんな些細なことは気になりはしない。
 僕が彼女に与えた苦痛は、この程度のことでは清算しきれないだろうから。

 「……私もお兄さんに謝らなきゃ。私の能力のせいでお兄さんを苦しめてしまってごめんなさい」

 『私の能力のせいで』?
 ということはもしや……

 「お姉ちゃんから聞いたわ。お兄さん、私の“無意識を操る程度の能力”のせいで苦しんでいたんでしょう?
  だから私を、その……遠ざけたんでしょ?」
 「……ああ、その通りだ。だがそれは君の責任じゃない。
  君が故意にやったことではないし、何より僕の心がもっと強ければ――」
 「いいえ、悪いのは私よ」

 今までに聞いたことのない、紳の通った彼女の声。
 声量自体は大したことはなかったが、それでもその言葉には僕を黙らせてしまうだけの迫力のようなものがあった。

 「お兄さんが苦しんでいたのは私の能力が原因……
  もっと言うならそんな能力を手にしてしまった私自身が原因なの。だから……ごめんなさい」

 そう言って、こいしは再び頭を下げた。
 そんなことはない、君は悪くない――などと言って励ましてやることもできたが、それは返って逆効果だろう。
 彼女が自身の能力と向き合い、自らの非を認めているのだ。
 だったらその謝罪を正面から受け止めてやることこそが、僕が今選べる最も正しい選択肢に違いない。

 「……もういいんだ。あの件についてはお互いに悪いところがあった、それでいいじゃないか」

 僕が謝り、こいしも謝った。
 これで過去のことは全て清算されたはずだ。

 だったら次は――未来のことを話し合うべきだろう。

 「それで君はこれからどうしたい?」

 以前のように2人で生活するか、
 相容れない存在だと割り切り、絶交とはいかないまでも距離を置いた関係を続けるか、
 それともいっそのこと綺麗さっぱり縁を切ってしまうか。


 「私は……お兄さんの側にいたい。お兄さんを苦しませることのないように今の能力を失う努力もするから、
  だから……また私と一緒にいてくださいっ!」

 こいしが選んだ道は僕との共存だった。
 それに対する僕の応えは――


 「……すまない」
 「え……」



 「本来なら僕の方から言うべき台詞を、君に言わせてしまってすまない」
 「それじゃあ……」
 「ああ、改めてよろしく……こいし。こんな僕と一緒に過ごすことを選んでくれてありがとう」

 僕の答えなど既に決まっていたのだ。
 輝かしい思い出にしがみ付き、ダラダラと生き続けるのはもうやめにしよう。
 そんな思い出さえも上回るもっと輝かしい日常を、彼女と――こいしと共に築いていこう。
 そうすれば、自然と過去に囚われることもなくなるはずだ。

 「また君の能力に負けてしまわないよう、少しずつ……少しずつ心を強くしていこうと思う」
 「私も早く心を……第3の目を開いて、昔の能力を取り戻せるように頑張る!」

 互いがそれぞれ成長を遂げ、そのカタチを変えていく。
 もう2度と傷付け合うことのないように、ぴったりと綺麗に合わさることのできるように――

 「じゃあ僕も、君の心を開くために尽力しないといけないな」
 「だったら私もお兄さんが寂しくならないよう、いっぱいいっぱい幸せにしてあげる!」

 そう言って、こいしは僕の胸へと勢い良く飛び込んできた。





 長年の間、色褪せて止まっていた僕の歴史が動き出す。

 長年の間、固く閉ざされていた彼女の心が開いていく。


 互いに幸せを分かち合える、素晴らしいパートナーを見つけたことによって――














以上になります
何というかご都合主義も甚だしい展開ですね、はい
でも僕はハッピーエンドが好きなんです! 幸せなのが一番なんです!
……いつかドロドロしたBADも書きたいケドネー

さとりさんが上○さんばりの説教キャラになってしまったが……こんな頼りになるお姉ちゃんもアリだと思うの

さとり「同棲だなんて認めないわよ!? まずは地霊殿まで挨拶に――」

以上、“さとりさんはシスコン”派の僕でした


ご意見ご感想、どしどしお待ちしてます!

PS. このSSのifストーリー(ネチョ)をいつか書くかもしれませぬ
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No title

初めましていつも楽しませてもらってます!
さとりんマジお姉ちゃんw
本気で怒ってくれる家族ってたのもしいっすね
これからもおうえんしてまっす
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葉巻

Author:葉巻

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