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『真夜中の交渉』 霖之助 レミリア フランドール


以前crowさんよりリクを頂きました、レミフラ霖になります。
完成が非常に遅れてしまい、誠に申し訳ありませんでした……

それではどうぞ。


メインキャラ霖之助 レミリア フランドール
 甘さ★★★☆☆・・・3つ
 シリアス★★★☆☆・・・3つ
 そこはかとないエロス★★★★☆・・・4つ
比率的には 『レミリア7:フラン3』 といったところです


『真夜中の交渉』



 「お邪魔するわよ、店主」
 「遊びに来たよ、霖之助!」
 「……いらっしゃい、レミリア、フランドール」

 日没後の香霖堂。
 一日の業務を終え休息がてらに緑茶を啜っていた僕は、仲良く連れ立って来店したスカーレット姉妹を煩わしそうな態度で出迎えた。

 「随分と無愛想じゃない。それが客に対する態度かしら?」
 「客、ね……」

 たしかにレミリアの言うとおり、彼女たちは客……それも、申し分ないほどの上客だ。
 しかし、それはそれ、これはこれ。
 例え如何なる上客であろうとも、営業時間外に平然とした態度で押しかけられれば、
 歓迎しようという気持ちが湧かなくなるのも無理はない。

 「規定の営業時間内に訪問してくれたのなら、僕は君たちを最上の笑顔と持て成しでもって出迎えたことだろう」
 「それはそれで気味が悪いわね」
 「………………」

 一体僕にどうしろと言うのか?
 これで此度の来店の理由が冷やかしの類であったならば、明日から香霖堂の戸口には十字架とニンニクが常設されることとなるだろう。

 「……で、だ。今日は一体何をお求めで?」
 「いえ、別に何も?」
 「さて、ニンニクはどこに仕舞ってあったかな――」
 「話は最後まで聞きなさい。ちゃんと買い物はしていってあげるわよ。
  もっとも、買い物をするのは私じゃないけどね」
 「君じゃない……と、いうことは……」

 言いながら、レミリアの斜め後方に佇んでいる金髪の少女――フランドールへと視線を移す。
 彼女は僕の視線に応じるようにして笑顔を浮べると、

 「うん。今日はね、私が香霖堂で買い物をしていってあげる!」
 「フランドールがかい? それはまた珍しいね」

 過去、フランドールがこの店を訪れた回数は、せいぜい二桁に達するかどうか。
 そしてその数少ない来訪の中で、彼女が商品を購入していったことは一度たりとも無かったはずだ。

 「フランはね、一度も買い物をしたことがないのよ」
 「一度もだって?」

 齢500になろうかという彼女が生まれてこの方一度も買い物をしたことがないなどと、驚愕せざるを得ない事実である。
 ……逆に言えばその事実が、フランドールのこれまでの人生が如何様なものであったかを、憐憫を漂わせながら物語っていた。

 「お姉さまと一緒に“しょっぴんぐ”できるだなんて、夢みたい!」
 「ふふ、そうね。私もとっても楽しいわ」

 親愛が篭められた笑みを交し合う二人を見ていると、こちらの顔にまで笑顔が伝播してしまいそうだ。

 こうして見ると、根っからの仲良し姉妹にしか思えないこの二人。
 だが実際は、このような光景が見られること自体、まさに夢のような……いや、夢にも思わなかったほどである。
 500年というあまりにも長すぎる時を経て、ようやく姉妹の絆は結びつこうとしているらしい――











 「わぁ、これ綺麗……」


 背の高い商品棚の向こう側から、フランドールの声がする。
 あの辺りにはたしか、ブローチやペンダントといったアクセサリーの類が陳列されているはずだ。
 恐らくはその中の一つに目を奪われ、感嘆の声を上げたのだろう。

 「ふぅ……もうだいぶ寒くなってきたな」

 湯呑みに注いだ緑茶を啜りながら、季節の移り変わりを身をもって実感する。
 鼓膜を突き破らんばかりに狂い鳴いていたセミたちの合唱が、今では恋しくさえ感じられるから不思議なものだ。

 「そうしていると、まるで老人みたいね」

 情趣めいた思想に浸かっていた僕目掛けて、レミリアが失礼な言葉を投げ掛ける。
 彼女はゆっくりとした歩調でこちらに歩み寄ってくると、側に置かれていた来客用の椅子へと腰掛けた。

 「老人で悪かったね。実年齢でいったら、君たちのほうが遥かに年長者だろうに」
 「レディーに向かってそんなことを言うものじゃないわ」

 くすくすと笑みを零すレミリアの外見は、レディーというよりもガールに近い。
 しかし、それはあくまで外見上の話だ。
 彼女を見た目どおりの童女と判断し侮りでもしようものならば、手痛い制裁を喰らう羽目になるだろう。
 僕はそれを心得ているからこそ、決してレミリアのことを子供扱いしないよう常日頃から心がけていた。
 手痛い制裁はもちろんのこと、不興を買って貴重な上客を失うのも御免である。

 「……やっぱり、迷惑だった?」

 唐突に聞こえた弱気な声に、僕は幾分の驚きを交えながら顔を起こす。
 すると視線の先には、眉尻を僅かに落としたレミリアの憂い顔が存在していた。

 「こんな夜更けに訪れたりして、迷惑だったかしら……?」
 「いや、迷惑というか……その……ええと」

 傲岸不遜を体現したような存在であるレミリアの口から、そんなしおらしい台詞が飛び出すとは夢にも思っていなかった。
 だからこそ、僕は言葉に詰まってしまう。
 どのような回答をすれば彼女を傷つけずに済むのか、驚愕の抜けきらない頭で必死に考えあぐねていると、

 「…………ぷっ」
 「え?」
 「くっ、くくく……っ! ま、まさかそこまで気を遣ってくれるだなんてね……くく」

 ……やられた。
 冷静に考えればおかしな話である。ほんの数分前、あれほど尊大な態度で店の扉を開け放った彼女が、
 舌の根も乾かぬうちに今のような殊勝な台詞を口にするはずがない。

 「……僕をからかうのは楽しかったかい?」
 「ええ、とっても」

 実にいい笑顔をしている。その血色のいい頬を両の手でぐりぐりと抓ってやりたいぐらいだ。
 無論、本気でそんなことをする勇気はない。

 「やっぱり思っていたとおり、無愛想ではあっても冷酷ではないのね、貴方」
 「そりゃあね、人並みの情と良心ぐらいは持ち合わせているつもりだよ。
  もっとも、それらはたった今君に踏み躙られたが」
 「あら、もしかして怒ってる?」
 「僕の心中は今、君の両頬を抓ってやりたい衝動でいっぱいだよ」
 「おお、こわい」

 そう言って、レミリアは肩を竦めつつ苦笑した。
 ともすれば一種の挑発とも受け取られかねない台詞であったが、レミリアの不興を買うには至らなかったらしい。
 敬意と礼節は失することなく、かといって謙りすぎることもないように。
 絶妙とも曖昧とも言い難いこの距離感こそが、レミリア・スカーレットと森近霖之助の、もっとも居心地のいい関係なのであった。

 「でもね、こんな時間に押しかけたことを申し訳なく思っているのは事実よ」
 「……また僕をからかおうとしているのか?」
 「今度は正真正銘、私の本心。貴方がそうであるように、私にも人並みの情と良心は備わっているもの」
 「人並みの情と良心、ね……。その情と良心を発揮して、こんな時間に来訪することを踏みとどまって欲しかったよ」
 「仕方ないじゃない。可愛い可愛い妹の頼みだもの」

 レミリアはそう言うと、徐に店内の一角へと目を向けた。釣られて僕もそちらの方を見遣る。
 するとそこには、先ほどと変わらずに商品棚を物色しているフランドールの姿があった。


 「うーん、どれにしよっかなぁ……」


 どの品を購入すべきか決めかねているらしい彼女の口からは、自然とそんな独り言が漏れ出ている。
 レミリアはそんな妹の姿を紅い瞳に収めると、すっ、とその双眸を細めて言った。

 「『お姉さまと一緒にしょっぴんぐがしたい!』って、あの子がそう言うものだから、断りきれなくてね……」

 心の底から湧き上がる喜びを言葉の節々に染み込ませ、それらを口に出すことで幸福の味を噛み締めるかのように。レミリアは静かに呟いた。

 「……あまり甘やかしすぎるのは、良くないんじゃないのかな」
 「別に、ただ単に甘やかしてるわけじゃないわ。今日の買い物だって、社会勉強の一環を兼ねてのものだし」
 「社会勉強?」
 「言ったでしょ、フランは買い物をするのが初めてだって。
  だからこれを機会に、買い物の仕方を覚えさせようと思ってね」
 「なるほど。で、その初めての買い物を経験する場所に、この店が選ばれたわけだ」
 「そういうこと。どう? あの子の初めてを貰った気分は」
 「妙な言い回しはよしてくれ」

 レミリアがそういった台詞を口にすると、外見との不釣合いさから醸し出される背徳感にも似た感情と、彼女の身から放たれる異様な妖艶さとが相まって、何とも居心地の悪い心情に陥らされる。
 こういった冗談を口にできる辺り、彼女は何だかんだで魔理沙や霊夢よりも“大人”なのだと実感させられた。
 減らず口の絶えないあの二人でも、この手の冗談を言ってきた記憶は無い。

 「ま、冗談はさておき、貴方に言われずとも甘やかし過ぎには気を付けるつもりよ」
 「つもり、じゃ駄目だろう。君はもう少し、身内に対しても厳格なものと思っていたが……」
 「…………罪滅ぼし」
 「え?」
 「……ううん、今までの埋め合わせ、と言ったほうがいいかしら」

 レミリアは物憂げに目を伏せると、まるで自らに言い聞かせるようにして語り出す。

 「あの子には辛い思いをさせてしまったぶん、楽しい思いもさせてあげたい。
  だから、あの子の望みはできる限り叶えてあげたいのよ」

 そう語るレミリアの表情には、若干の気恥ずかしさが混同しているように見える。
 親馬鹿ならぬ姉馬鹿と思われはしないだろうか、とでも危惧しているのかもしれない。

 「随分と妹想いなんだね」
 「過保護……かしら?」
 「いや……そんなことはないと思うよ」

 僕に妹はいないが、それに限りなく近い“妹分”なら、二人ほど存在している。はた迷惑なことに、だ。
 しかしだからこそ、妹のことを想うレミリアの気持ちには、微量ながらも共感を覚えずにはいられなかった。

 「姉が妹のことを想うのは、ごく当たり前のことさ。
  そこに余計な遠慮や気後れを感じる必要はないと、僕はそう思うね」
 「当たり前のこと、か……」

 レミリアは静かに瞼を閉ざすと、僕の言葉を繰り返し呟いた。
 そうすることで、深く心に刻み込んでいるのだろう。
 ようやく手に入れた“当たり前”を、もう二度と手放すことのないように――






 「お姉さまー!」

 僕とレミリアの会話に一区切りがついたところで、ちょうどフランドールが戻ってくる。
 購入する品が決まったのか、もしくは一人で店内を見て回ることに飽き、姉を呼びに来たのか。

 「どう? 何か欲しいものは見つかったかしら」
 「それがね、欲しい物がありすぎて困っちゃって……」

 蝶を模して作られたルビーのペンダント、一抱えもある大きな熊のぬいぐるみ、白い陶器に金色の花模様が映える小洒落たティーセット……
 フランドールは指折り数えながら、欲しい商品を一つ一つ言い並べていく。
 やがてその数が二桁に到達し、折った右手の指を再び戻し始めたところで、僕はようやく制止の声をかけた。

 「ちょっと待つんだ」
 「? どうしたの、霖之助?」
 「いや……」

 たった今彼女が挙げた商品は、どれも決して安くはないものばかりだ。
 ざっと見積もっても、恐らくは香霖堂の年間収益に匹敵することだろう。

 「君は今まで買い物をしたことがないらしいが、買い物の仕組みについてはどれくらい理解しているんだい?」
 「んーっとね、欲しい物を買うためには、それに見合った量のお金を払わなくちゃいけないんだよね?」

 フランドールの返答を聞いて、僕はひとまず胸を撫で下ろす。
 『商品を購入するためには、それ相応の代金を支払わねばならない』
 これは物の売買における大原則であると同時に、遵守しなければいけない世の中の常識である。
 残念なことにその常識を弁えない輩も存在するが、幸いにも目の前の少女はその類ではなかったようだ。

 「ちゃんと理解しているならいい。だが……」

 そう言って僕は、側らに座るレミリアの顔を横目で窺う。
 レミリアもそれに気付いたのか、肩を竦めるようなジェスチャーをしてから口を開いた。

 「フラン、買う物は一つだけって約束したでしょう?」
 「うぅっ……そ、そうだけど……」
 「いい、フラン?」

 不満を燻らせるフランドールの顔を見つめながら、レミリアは優しい声色で語りかけていく。
 その姿は、どこまでも姉らしいものであった。

 「世の中、欲しい物が必ず手に入るとは限らないの。
  あまり贅沢ばかりしていると、いつかきっと困ることになるわ。
  ……貴女にはそうなって欲しくないのよ」

 裕福な環境で育った者、常に我侭を押し通してきた者、権力や財力を振りかざして生きてきた者。
 そういった者たちは皆総じて、『欲しい物は手に入って当前』という傲慢な錯覚を抱きがちだ。
 そのような歪んだ人格形成を阻止するためには、贅沢を避け、我慢することも覚えておかなければならない。
 レミリアがフランドールに理解して貰いたいのは、きっとそういうことなのだろう。

 「分かってくれたかしら?」
 「……うん、分かった」
 「そう……いい子ね」

 レミリアは椅子から立ち上がりフランドールの元に歩み寄ると、その頭を優しく撫でた。

 「んっ……へへ」

 フランドールは照れくさそうに頬を紅く染めながらも、レミリアの行為をただただ受け入れている。
 僕は一人蚊帳の外に立たされたような気分になったが、不思議と不快感は湧いてこなかった。

 「それじゃあ、何を買うのか改めて考えるといいわ」
 「うん! んー……どれにしようかなぁ……」

 フランドールは再び考え込むも、どうやらよほど迷っているらしく、うんうんと唸り声を上げながら頭を捻っている。
 姉との約束を破るつもりは無くとも、欲しい物はやっぱり欲しいのだろう。
 彼女にとって今日は初めての買い物なのだから、その記念すべき初購入品をどれにするか、迷いあぐねてしまうのも無理はない。

 「……少しいいかな?」

 見かねた僕は、ある提案を持ち出すことにした。

 「レミリアが言ったように、我慢を覚えることは大切だ。
  しかし、何かを欲しがる気持ちというものはそう簡単に押さえ込めるものじゃない」

 達観した大人ならまだしも、フランドールの精神はまだまだ未熟であると言わざるを得ない。
 そんな彼女に過度な我慢を強いるのは、些か酷な気がしないでもなかった。

 「だからここは、折衷案で手を打たないか?」
 「せっちゅーあん?」
 「二つの意見の間を取って、双方が納得できるような形で物事を収めることだよ」

 欲しい物を一度に全て手に入れてしまったのでは、フランドールの教育上よろしくない。
 かといって欲求を無理に押し殺そうとするのは、かえって悪影響になりかねない。
 そこで僕が考え出した折衷案とは……

 「今日のところはひとまず一つだけで我慢する。そして、残りはまた今度買いにこればいい」
 「また今度?」
 「ああ。『購入できる商品は、一回の来店につき一つまで』とでも制約を設けて、そうだな……
  月に一度くらいの頻度で、この店に買い物に来るといい」

 一度に全てを購入……というのでは、先も述べたように贅沢が過ぎる。
 だがしかし、何回かに分けて購入するのであれば、それは別段贅沢の括りには当て嵌まらないだろう。

 「何なら取り置きも検討しよう。君が次に来るときまで、さっき言った商品を誰にも売らずに取っておいてあげるよ」
 「ほんと!? ……あ、でも……」

 フランドールは一瞬だけ表情を輝かせたが、すぐに何かに気付くと、おずおずとした動きでレミリアの方を見た。
 僕がどうこう言ったところで、結局は姉からの許可が下りなければ意味がない。
 不安げに自分の顔を見つめてくる妹に対し、レミリアは、

 「そういうことなら別に構わないわよ」

 と、微笑と共に僕の提案を許諾した。
 それにより、今度こそフランドールの表情が満面の笑みで満たされる。

 「良かったじゃないか、フランドール」 
 「うん! ありがとう、霖之助!」

 とんでもない。むしろ感謝するのはこちらの方だ。
 これで当分は、安定した収益が見込めるのだから。

 「さて、それで今日のところは何を買っていってくれるのかな?」
 「んー……」

 再度考え込むフランドールだったが、その様子は先ほどとはまるで違って見える。
 今の彼女は、純粋に商品を選ぶことを楽しんでいるようだった。

 それからしばしの逡巡の後、フランドールは僕の方を向いて声を発する。

 「……ねぇ」
 「なんだい? 欲しい物が決まったのかな」
 「ううん、そうじゃなくて……この店の中にあるものなら、どれを買っていってもいいんだよね?」
 「ん……まぁ、そうだね」 

 唐突な質問に僕は一瞬だけ考えをめぐらせたが、すぐに問題ないだろうという結論を下した。
 どれだけ大金を積まれても手放したくないもの……要するに、僕の眼鏡にかなった珍品・逸品の類は、
 普段から裏の倉庫や奥の物置に眠らせてある。
 店の中に並べられている商品は、どれも売りに出してしまって構わない代物ばかりだ。

 「店内にあるものだったら、代金さえ支払ってくれれば譲ってあげられるよ」
 「そっかぁ…………じゃあ私、霖之助が欲しい!」


 僕は軽く目眩を覚えた。
 この子は今、無邪気な声で何と言い放った?

 「……すまないが、もう一度言ってくれないか」
 「私、霖之助が欲しい!」

 できれば聞き違いであって欲しかったのだが……
 彼女はどうやら僕のことをご所望らしい。全く、冗談ではない。

 「はぁ……いいかい? お金で買えるのは商品だけだ。そして、僕は商品じゃない」
 「そうなの? でも私、お姉さまが咲夜にお金を渡してるところを見たことがあるよ。
  あれって、お姉さまが咲夜を買ってたんでしょ? だから咲夜は館で働いてるんじゃないの?」
 「それは別に、咲夜という個人をお金で購入しているわけではないよ」

 まあ、見方を変えればそう表現できないこともないが、その金は“給料”であって“代金”とは似て非なるものだ。
 どうやらフランドールの世間知らずの度合いは、僕の想像の遥か上をいっていたらしい。
 人を金で購入しようなどと、ある程度の常識を備えていれば決して口にはできない発言だ。
 
 「そもそも、どうして僕のことが欲しいだなんて……他にも欲しい物はたくさんあるだろう?」
 「だって、他の商品は霖之助が“とりおき”しておいてくれるんでしょ?
  でも、霖之助が誰かに買われちゃったら“とりおき”できなくなっちゃうもの」

 フランドールの言っていることはちぐはぐで、根底にあるべき常識が欠如している。
 まず第一に、僕は商品ではないから誰かに買われる心配などしなくてもいいし、そもそも僕を欲しがる悪趣味な輩など存在しないだろう。……目の前の少女を除いては。

 (――っ! そうだ、レミリア……!)

 僕は助けを請うようにして、レミリアへと視線を送る。
 姉として、この世間知らずな妹に常識を教えてやってくれ、と。

 「――ん?」

 僕のアイコンタクトを察してくれたのか、レミリアは微かな反応を示す。
 そして彼女は「うーん……」などと悩むような仕草を見せた後、



 「――――フッ」



 ニヤリ、と

 悪魔のように笑った。


 「レミ、リ――」

 背筋を悪寒が走り抜け、口から出る言葉は途切れ途切れに分断される。
 そんな僕に構うことなく、レミリアは実にゆったりとした動作でこちらへと歩み寄ってくる。

 「……フラン。世の中にはお金で買えないものもあるのよ」

 そう、その通りだ。
 なんだ、ちゃんとフランドールに言い聞かせてくれて――

 「そういったものはね……お金以外の手段で手に入れなきゃダメ、よ」
 「……っ!?」

 レミリアは僕に、逃げ出す隙どころか反応する間も与えずに。
 己の両腕を僕の右腕へと、まるで薔薇の蔦のように絡みつかせた。

 「……離してくれないか?」
 「あら、何言ってるの? 交渉はこれからでしょうに」

 相手が少女であるとはいえ、両腕でがっしりとしがみ付かれてしまったのでは、そう簡単に振り解くことも叶わない。
 ましてや彼女は吸血鬼、人知の及ばぬ存在だ。仮に僕が全力で抗ったとしても、この腕を解放させることは到底不可能だろう。

 「……ねぇ、店主」

 レミリアは僕の耳元にそっと顔を近づけると、囁くような声で呟きを漏らす。

 「言ったわよね、私」
 「言ったって、何を……?」
 「『あの子の望みはできる限り叶えてあげたい』って。だから――」



 「あの子のものになってみない?」



 「……っ! 冗談じゃない、僕は商品ではないとさっきから何度も――!」
 「もちろん、給金は弾むわよ?」

 そういう問題ではないのだ。
 僕は誰かの所有物になるつもりはないし、この店以外の場所で働く気も更々ない。
 たとえどれほどの金額を提示されようと、僕の意思も、体も、僕自身だけのものだ。

 (……仕方がない。もしかしたら機嫌を損なうかもしれないが……)

 僕は空いている左腕を使い、多少強引にでもレミリアを引き剥がそうと試みる。
 このままではまずい。
 一体何がまずいのかは分からないが、すぐにでも彼女から離れろと、先ほどから僕の本能が警鐘を響かせて止まないのだ。

 そして、僕の左腕がレミリアの肩を掴もうとした、その瞬間――


 「こうすればいいの? お姉さま」


 ――無情にも、もう一体の悪魔が僕の左腕を拘束した。

 「なっ!?」
 「ふふっ……そうよフラン。そうやってお願いすればいいの」
 「分かった、やってみる!」

 「妹に何を教えているんだ」とか「フランドールも真に受けては駄目だ」とか、
 言うべき台詞は多々あるはずなのに、悲しいかな、焦燥した思考はそれらを言葉に変換できないでいる。

 「ねぇ、霖之助。毎日一緒に遊んであげるし、お菓子だって分けてあげるし、ちゃんといい子にしてるからさぁ」
 「うちに来れば、豪華な食事にふかふかのベッド、それに図書館の本だって読み放題よ?」

 悪魔の囁き。
 そんな言葉が僕の脳裏に浮上する。
 少女の可憐さと大人の色香を併せ持った一対の悪魔は、僕の両腕に全身を密着させて、耳の奥へと魅惑の囁きを流し込んでいく。

 「お願い、霖之助~」
 「悪いようにはしないわ。だから……ね?」

 耳から注がれた二人の声は、甘い熱を伴って僕の脳髄をじわり、じわりと溶かしていく。
 それはもはや、“毒”と形容してしまって差し支えがなかった。
 彼女たちが放つ妖気に中てられているのか、それともこれが吸血鬼の持つ魔性だとでも言うのか。

 (一体どうしてこんなことに……)

 僕はどこかで何かを間違えてしまったのか?
 それとも、最初からこうなる“運命”だったのか?
 分からないことばかりの現状ではあったが……それでもたった一つだけ、明らかな事実が存在している。

 それは、彼女たちが紛れもなく悪魔であるということ――

 そんな悪魔たちに捕らえられ、身動きを封殺された非力な半妖は、

 「……勘弁してくれ」

 力無く、そう呟くことしかできなかった。


 「店主」
 「霖之助」


 『私たちのものに「なってよ!」「なりなさい」』












以上になります。

いかにもオトナといったキャラが放つエロスより、見た目幼い少女が放つエロスの方が破壊力が高い。
そう信じてやまない今日この頃です・・・

ご意見ご感想、お待ちしております!
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非公開コメント

No title

どうも、crowです

公開されてから早一ヶ月がたちました
まず最初にすいません!!そしてありがとうございまーす!!(ジャンピング土下座

いやぁ、渋に投稿された時に思わずニヤニヤしながら読ませて頂きましてその時は自分がリクエストしたことなんてスッカリ忘れていてそして今日このssの紹介文に自分からのリクエスト~と載っていて半分寝かけていた頭が一気に目が覚めました
本当にありがとう御座いましたm(_ _)m

これかも応援しています頑張ってください

それでは、失礼しました
プロフィール

葉巻

Author:葉巻

霖之助関連のSSがメイン
カップリング要素が多いので苦手な人はリターン推奨
まだまだ新人なので、とりあえずはたくさん書いて文章力を向上させるのが目標
※リンクはフリーとなっております
 相互リンクして頂ける方、絶賛募集中です!

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